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10号 手塩にかける
2020.05.15
三年ほど前に、私は新築の家を購入しました。購入する以前は、庭の手入れ、特に、何度引いても生えてくる草を引くことが嫌だなぁと思っていました。理由は、この作業が永遠と続くゴールのないレースのようで、草引きという時間がとても無駄な時間に思っていました。それで賃貸暮らしを選んでいたのですが、子供も大きくなり、さすがに賃貸では手狭になり、仕方なく家を買った次第です。
正月明けに引越しをしたので、私の嫌いな草引きはほとんどありませんでした。しかし春先になってくると庭に見知らぬ植物が生えてきていました。これらは最初から植わっていたものだと無視していましたが、大きくなってくると誰が見ても雑草です。
「あーとうとう生えてきたなぁ。これから面倒だなぁ」と思いながら数本の雑草を抜きました。理由は分かりませんが、草を引くことで、今の状態が、新築の時と同じ美しさであるような気がして、少し嬉しいという気持ちがわいてきました。
何日か経つとまた、雑草が生えていたので、これを抜きました。草を抜くと、庭がきれいになった気がして嬉しい気持ちがわいてきます。以前の私は、「草を引くことが面倒だ。嫌なことだ」と思っていました。今は「草を引いた後のきれいな庭を見るのがうれしい」に変わってきています。
何度か草引きをしていると、これは会社と経営と似ているなぁと思いました。庭に雑草が生える(会社に不満、問題などが発生する)。雑草を抜いてきれいな庭にする(手をかけて問題を解決する)。その美しい姿(庭、会社の状態)を楽しむ。時間がたてばまた庭には草が生えてくる(会社に新たな不満、問題が発生する)ものだ。
以前の私は、完璧な庭を目指していました。コンクリートで囲まれた草を引く手間のないような庭(何の不満や問題のない会社)です。
こんな庭は面白くない(そんな会社は存在しない)ですね。どんな庭でもしばらくすれば草は生えるもの(どんな会社でも不満や問題は起こるもの)。手間を惜しまずに、また早く抜くことで美しい庭が維持できる(早く対処することでよい状態が続く)
私は、MGの青チップのように、お金で買える絶対的な効果がある(と思われる)ものにひかれていました。庭でいえばラウンドアップやコンクリートで庭を固めて、面倒な作業がなくなる。会社でいえば即効性のある販促チラシ、営業方法、売りやすい市場を見つけることで会社が良くなって、自分の手間が減ってくることを望んでしました。
しかしそういう効果は長く続かないことに気が付きました。会社経営とは手間暇を惜しまずに、手塩にかけること。そのことで一歩でも理想に近づいている事実を認めて楽しむことかもしれないと思いました。
森田療法の森田正馬先生の「努力即幸福(努力すなわち幸せ)」という言葉を教えてもらったときは、私は楽して結果を求めるタイプだったので「どうして(無駄な)努力が幸福なの?」と思いました。
しかし、無駄と思われる草引きや複写はがきを続けたり、周辺のゴミ拾いをすることで、「努力即幸福」が少し理解できるようになりました。ただ誤解してほしくないのは、努力していればいいというわけではありません。私ももちろんいい結果を求めています。しかし、良い結果が出たかどうかでその人の価値は決まらないと思います。結果は一時のご褒美であり、積み上げた努力そのものが幸せかもしれませんね。
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